家(イエ)―1グランプリ 結果発表
■はじめに
家(イエ)―1グランプリでは、建築家とお客様との出会いをより身近にし、日本の持つ伝統と地域文化の継承と個性溢れる住まいの復権、耐久性が高く安全な住まい、そして社会資本のストックとして住まい創りの推進のため、実際に「住める」ことを条件に、実在する土地を条件として区画割りを2区画、3区画とし、それぞれコストをスタンダードコスト(建築本体価格2,000?2,500万円までミドルコスト(建築本体価格2,500?3,500万円まで)に分けて提案を募りました。
応募状況は、「スタンダードコスト(2区画)部門」が1案、「ミドルコスト(2区画)部門」が3案、「ミドルコスト(3区画)部門」が4案の提案を頂きました。厚くお礼を申し上げます。
いただいた提案数を見て、部門別のよる審査を変更し、コストおよび区画割りの条件を合わせたうえで「コンセプトとともに、実現を前提として構造・機能・デザインと敷地の周辺環境に対する配慮」がどのように盛り込まれているのかを中心に選考委員会で審査・選考いただきました。
その結果、佳作3作品を選考いただきました。
これらの選考された作品および応募作品はプレタポルテとして、多くの建築主の方にご提案してまいります。
尚、今回のコンペ実施にあたりまして、諸般の事情により結果発表が大幅に遅れ、皆様方に大変ご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。
■選考委員
委員長
木村儀一(建築家/明治大学理工学部建築学科 教授)
委員
今井 均(建築家/株式会社創建築アトリエ 代表取締役)
濱田昭夫(建築家/TAC濱田建築設計事務所 代表)
■選考結果
佳作
- 「ツキヌケハウス」 アトリエCONTINUE(コンティニュー) 小島健一
- 「大倉山の3連住宅」 北村淳建築設計事務所 北村 淳
- 「大倉山コートハウス」 アトリエアルク 諸我尚朗
■選考結果報告
委員長 木村儀一
総評
住宅は時代の暮らしぶりが反映されるべきものという言い方もあるが、庶民の暮らしを考え住宅設計が行われるようになったのは戦後のことである。人の暮らしには過去・育った環境を引きずっている部分これを文化ともいうが、地域的に伝わる独特な生活風習、特徴のある暮らしが反映しているところもあって、必ずしも短期に時代が現れるものでもないといえる。しかし一方、今日は住み手の個性・ライフスタイルが空間として実現される時代でもある。
日本人としての日常的な暮らしの過去、今日の姿そして今後の姿、これを受け入れる器である建築空間の姿の追求は常にのしかかる命題でもある。
この個々の住いの課題の上に、社会的・時代の要求ともいえる、省エネ、エコロジー、サステナブル、景観等々の問題に答えることが無視できない時を迎えているといえる。
今回は 年度末の時節、ご多忙な時期に重なったのか、参加作品の数は多いとはいえない総数は8案、その内訳は2区画が4案、3区画が4案で、スタンダードコストは2区画案に1点、残るはミドルコスト7点の参加であった。
審査の方法は まず審査員個々に相当時間を掛け内容を見る時間をとった。協議に入る前に評価基準のある程度の意識の共通化を図るために、それぞれの住宅観について意見交換を行った。この後3人で1作品ごとに意見を交換し評価する方法をとった。入賞作品の選出は協議の結果3人の合意によるものとなった。
協議の結果参加作品の少ないこともあり区画・コスト別の審査方法を取らないこととした。また最大の関心ごとである最優秀賞も同様の理由により今回は残念ながら見送ることになった。結果としてデザイン賞に推薦する作品も不在であった。
従って上記の3作品を佳作入賞として推すこととした。
■選考提案の評価ポイント
「ツキヌケハウス」 アトリエCONTINUE(コンティニュー) 小島健一
木村儀一評
2区分された土地のそれぞれの特質を生かした平面計画、近隣住居に配慮した周囲を低く抑えた建築構成、南面道路側の建築線を少し下げ、建物を低く抑え地下レベルは駐車場とし更に南東の隅切り部分をオープンとした内容は、周辺への配慮と南面道路への圧迫感を押さ周辺への配慮のあり方を示している。しかしこの効果は住み手の使い方のセンス次第でもう一つアイデアが欲しいところである。ツキヌケのアイデアなの一つであろうが、入り口へのアプローチは階段を上るに従い徐々に見え出す北側公園の緑、この見せ方は優れているが、逆の行為は扉を開けると階下の道路まで一直線、訪問客を見下すことになるところと、2階に取られた南北に抜けた、公園とのつながりに配慮されたLDKは大きさ位置、形状は使い方を考えると暮らしが見えない。またバルコニーや屋根からの夏場の照り返しは相当なものとなりそうであり、この部分にもう一工夫が求められる。
今井 均評
角地の扱いとして一番魅力的であるのと同時にその生活の状況によっては危ういのがこの案であろう。道というパブリックに奥行きを与えた点は大変良いと思われるし、階段を登った先がスリットで空と公園に抜ける空間はハッとさせられそうだが、ここも実生活の中でどう空間として保たれるのか不安を感じる。ここに機能上の何か絶対的な要素が欲しかった。しかしこれを注文住宅として考えれば、これらの心配は無用なのかもしれない。
▲ツキヌケハウス模型
濱田昭夫評
対象となる環境に接したときに受ける印象を直感的に、明解な手法で表現している。又、その事をコンセプトとして先鋭性をもって持続した構成を評価する。道路のレベルと広さを敷地の中に取り込み、正面のワイドでオープンな階段によって、既存の敷地が、北側の公園の森の奥から続く。大地としての新たな場が生まれ、敷地条件を生かし、周辺の環境の中に呼応させている。一方向だけの方向性と透明性を強調したプランニングになっているが、住空間としての生活居住性への配慮から問題はないか、又年齢と共に美しく年をとる住まいに期待が持てるのか検討が残る。
「大倉山の3連住宅」 北村淳建築設計事務所 北村 淳
木村儀一評
3つに分割された土地全体が南面道路のレベルにあわせ切り取り全体を3層とする提案である。建築線を後退させ駐車スペースを兼ねた前庭は、3戸連続した前庭の高木植栽とこの3戸一体となった門扉計画はデザイン次第であるがは道路面の住宅地街区景観形成に相応しい表情を造り出す可能性を持っている。また公園側のドライエリアとなったコートの確保は、1階に視覚的に公園との繋がりを密にし防犯的にも効果が期待できる断面計画となっている。スタジオ設置を本格的に取り込んだ計画は、今日の多様化しているライフスタイルを受け入れる住まいとして優れた計画であると評価する。東側の住戸のみが台形敷地形状の南、北面の幅の違いを生かしたプランとなっているが、他の2戸も同様な宅地割りを反映させれば、その特徴を全体に生かすプランが生まれた可能性もあり、もう一工夫を望むところである。北立面にも表情が欲しい、公園との繋がりも合わせ食堂側にバルコニー設けても良いのでは、そして3層抜けた階段は冷暖房の効率を下げるものに為りかねない、空気の流れを切る工夫が求められる。
▲大倉山の3連住宅模型
今井 均評
全体のバランスが良く、これと言った欠点もなく、良くまとまったプランという印象が強い。前庭が、周辺のパブリックとしても、住居の三層に渡る外部空間としても、確実に生かされている点を高く評価したい。S O H Oという現代的な要因ともマッチした、快適なプランであり、実際の施工面でも比較的安価と思う。私の好みの問題かも知れないが、門扉をいかに親しみのあるものと出来るかが、周辺とのすり合せとして残っている様に思う。3つの同じ形態の住居に住まう施主側の立場から考えても、ニュートラルなデザインであることが救いとなっていて、好みの植栽で個性が出てくることを期待したいと思う。
濱田昭夫評
敷地内の南に道路と同じレベルで3戸共に広いスペースを一体化して取っている、このスペースが玄関までのアプローチ・車庫スペースを兼ね、前庭と植栽を配置した事がこの計画の特徴になっている。建物外観・ボリューム、空地/緑のかたまりのバランスが総体的に取れていて、この事で細切れになりがちな3戸の存在に奥行感と余裕、景観形成の醸成につながったものとなっている。一見地味なプラン構成になっているものの、動線計画がシンプルで、しっかりしている。あいまいなスペースがなく、各棟共に、インテリアへの発展性がある。構造的には、基盤となる足廻りの階をRC造として、上部の2層を鉄骨にしているが、RC部の壁式ラーメンでは、壁厚やスラブの梁、上部の鉄骨も含め、メンバーや形状に疑問が残る。また、南の眺望に考慮した透明性を北側の森にも同じように反映させ、ファサードに表現できなかったか。
「大倉山コートハウス」 アトリエアルク 諸我尚朗
木村儀一評
3宅地の割り、住宅計画のコンセプトには共感する。南北に長くなる宅地と住宅に、水回りを面させた中庭を挟み主寝室を公園側に取り、南面道路とのレベル差を生かし玄関へのアプローチをこの中庭に直接取り付けたこのアイデイアは巧みであり、もう少し密度高い住宅地内での計画提案ならば高く評価したい。3戸揃ったむき出しの屋上利用はあまり望めないのでは、木造フラット屋根の雨漏りリスクを考えると、階段上部はトップライトに留め、北側の公園との繋がりは2階食堂北にテラスを設けるのも方法ではと思える。この案の問題点は、上述した郊外住宅地の周辺環境認識にあり、南面道路側の処置にある。街区・町並み風景の連続性・継続性、見かけ上の高密度等は既存景観に対する配慮より環境享受・自己満足型にシフトしたデザインに見えるところがネガテイブである。
今井 均評
セミパブリックとでも言ったら良いのか、そんな外部空間がよく考えられていて興味深い。この路地風のアプローチは各人各様の生活の中身がこぼれ出てくるのであろうか?それはメダカの入った水鉢であったり、ヴィーナスの裸像であったり、それによる隣人のコミュニケーションの誘発が期待出来そうで、ちょっとワクワクする。それに比べ駐車場周辺のアクセスのデザインは、物足りなさを感じてしまう。
▲大倉山コートハウス模型
濱田昭夫評
多様なニーズに積極的に応えようとする社会資本のストックへの提案に、理解と評価が得られる。並列的で細長くなりがちな、隣棟間の圧迫感の解消に配慮して、住まい方を2つのブロックに分けたり、中庭を配したり、長手方向に対し東西にアプローチ通路を連ねたり、期待の1階の離れ室も含め、隙間に腐心したレイアウトが見られる建物1・2階は木構造となっているが、模型の鳥瞰視から受ける印象はRCコンクリート構造壁式を予想される形態に見て取れる。無論、技術的には、木構造で可能です。しかしながら、日本の気候風土から、特に耐久性の面などを、考慮すれば、屋根や、ペントハウス・笠木のディティールの防水や形状そのものに厳しいものがある